岡山地方裁判所 昭和24年(ワ)107号 判決
原告 信木敬一 外三名
被告 倉敷レーヨン倉敷工場労働組合
右代表者 組合長
被告 倉敷レーヨン株式会社
一、主 文
被告組合が昭和二十四年五月二十日総会の決議を以てなした原告等の除名は無効であることを確認する。
被告会社と原告等との間には昭和二十四年五月十九日以前の雇傭契約が現に存在して居ることを確認する。
訴訟費用は十分し其の一は被告会社其の余は被告組合の各負担とする。
二、請求の趣旨
原告等訴訟代理人等は、主文第一、二項同旨及び「訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求めた。
三、事 実
(一)、被告組合は被告会社倉敷工場從業員を以て組織された労働組合で総同盟岡山縣連合会に所属しており、原告等は其の組合員であつたが、昭和二十四年五月一日のメーデーに際して原告等は共産党員でもあつたので当日共産党主宰の行事に参加し被告組合の行事に参加しなかつたところ被告組合執行部は原告等の右行動を代議員会に付議し、次いで実情調査委員会及び懲罰委員会を組織し調査の上同年五月十九日二十日の両日に亘つて被告組合総会を召集して原告等の除名問題を付議し投票により組合規律を紊した行爲であるとの理由で除名した。
(二)、然し乍ら被告組合は元來完全な御用組合であり、本件除名は次の諸点で実質的にも手続的にも不当違法なもので無効である。即ち、
1 被告組合行事に対する不参加届出は單に事務的のことであり組合統制上の事項とは言えない。
2 憲法は国民が如何なる政見を有し如何なる政党に属し、如何なる政治活動を行うのも自由とし之を国民の基本的人権として保障して居り、本件除名の如く之を制圧する一切の法的行爲は憲法に違反した無効なものである。
3 本件除名決議は組合員の自由意思に基いていない。被告組合は本件決議に際して共産党員を除外した秘密会議を行い被告会社と連絡して女子從業員に対し職務時間中反共宣傳をなし組合決議に当つては組合員を所属部署毎にならばせ其の周囲を勤労課員で取卷かせ原告等の発言に対し拍手を禁じ投票用紙配付の際は除名賛成に丸印を付けよと言い且つ論議の際時間を要した爲用紙配付は夜に入つたが、一人一人に対し蝋燭を持廻り丸印を付けさす等被告組合幹部は組合員の意思を拘束した。
4 被告組合は総会に於いて原告等に十分間しか発言を許さず代議員に対しては代議員会の除名決議に反する発言を禁止する等の反民主的手続によつている。
5 組合員の除名は重大事項であるから総会によつて決すべきであるに拘わらず代議員会の除名決議採否の形式を採つて居るのは不当である。
尚組合幹部非難のビラの内容は原告等の除名決議の討議には含まれていない。
(三)、被告会社は被告組合との間にユニオン・シヨツプ制を協約しているところから右除名決議に乘じ原告等を解雇した。從つて除名決議が無効なる以上解雇も無効であり原告等と被告会社との雇傭関係は存続して居るものであるから、被告会社に対し右事実の確認を求める爲本訴に及んだものである。
と述べ、
被告組合の本件除名処分が有効であるとして主張する論点に付き組合員の除名処分が当然会社よりの解雇を伴う本件の如き場合は除名処分は組合員の生活権を奪う苛酷な処分であり権利の濫用に属する不当な処分であり、爾余の部分中原告の主張に反する点は否認する。と答えた。(立証省略)
被告等訴訟代理人は夫々「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め答弁として、
被告組合訴訟代理人は、原告主張事実中被告組合の構成員所属及び被告組合員である原告等がメーデーに際し共産党員であるので共産党主宰の行事に参加し被告組合の行事に参加しなかつたことから原告主張の如き手続(但し手続の瑕疵として挙げて居る事実は後記の如く否認する。)を経て原告等を組合規律を紊したものとして除名したことは認めるが、除名が憲法に違反する等の理由に因り無効であるとの点は否認する。原告等の主張は除名経緯を素直に見ていない。即ち総会の際の発言時間の制限は当時汽車通勤の組合員が多数であつたところから動議を提出し可決した上行つたものであり、蝋燭使用は偶々停電があつたので投票用紙記入の便宜を計り一部止むなく使用したもので組合員の意思の自由を拘束したものではなく、除名に至つた事情の詳細は次の通りである。
(一)、被告組合は代議員会の決議により昭和二十四年五月一日の倉敷地方労働組合協議会主催のメーデーに参加することとなり同年四月末メーデーは労働者の祭典であるから当日は週休であるが、工場業務從事者を除き全員参加せられたい。
各代議員は二十九日迄に工場業務從事者参加者事故不参加者等に分類して組合事務所に報告せられたい。
当日不参加者は氏名部署不参加理由を明記した書面を会長宛提出せられたい。
との事項及び集合時刻場所編成等を記載した書面を印刷して各部署に配付し更に同文のものを掲示板に掲げてメーデー参加人員数の把握に努めた。
(二)、五月一日当日集合場所に於いて被告組合浅野準備委員長は進駐軍軍政部より示達された、
1 デモ行進中に官廳の前等で行列を止めてはならない。
2 交通妨害をしてはならない。繁華街では交通巡査の指揮に從うこと。
3 決議文手交の場合は行列を止めることなく二、三の代表者を以て行うこと。
等の注意を発表した後会場に向けて行進を開始し、会場に於て議事を終了した後デモ行進に移つたが参加した日本共産党の一団は鶴形山ガード下に於いて同一場所に止まつて気勢を上げて被告組合の行列を止め下り会場に於いて参加団体の前を喊声を上げて乱舞する等傍若無人の行動をなした。
(三)、ところが右共産党の行列中に原告等が参加して居たところから除名問題が起り、又社会党の行列に被告組合員の国年勝一外二名が参加して居たことも判明した。
メーデーは労働者の意議深い祭典であり、從つて労働組合を主体とした行事であると言う観点から被告組合は組合員は凡て組合の行列に参加すべきものとして前記の如き準備をなし通告を行つたものであり、原告等の行動は被告組合の統制を紊したものとして規約第二十四條により懲戒に付されるに至つたのである。
(四)、被告組合に於ける原告等の懲戒除名は次の如き手続を以て行われた。
1 五月二日被告組合長は原告等及び前記国年等の行動が組合の統制を紊すものであるとの組合内部の声があつたので直ちに執行委員会を召集審議の結果代議員会の決議に俟つべく其の召集を議長に要請した。
2 五月三日代議員会に於いて実情調査の爲実情調査委員会を設けた。
3 実情調査委員会は五月五日六日の両日詳細に調査したところ原告等は何等反省するところがなかつたが国年等は自己の非を認めて陳謝した。
4 五月十一日代議員会は実情調査委員会より報告を聞き無記名投票の結果懲罰委員会の設置を決議した。
5 五月十二日十四日の懲罰委員会で原告等は一應自己の非を認めたが其の審議終了せぬ同月十六日原告等は態度を変え原告等が中心となつて組織している「日本共産党倉敷レイヨン細胞」は「日本共産党西部地区委員会」の名を籍り被告組合幹部を誹謗し事実無根の個人攻撃ビラを工場正門前專用道路上で頒布した。同月十七日の懲罰委員会に於いて原告等四名に対し除名の結論を下し他方国年等は退社或は情状酌量に値する事実があつたので不問に付し或いは権利停止を決議した。
6 五月十七日の代議員会に於いて懲戒委員会の報告に基き檢討の上右決議を絶対多数で容認した。
7 共産党細胞のビラや宣傳デマ放送が連日工場内外で行われて居る最中の五月十九日午後四時三十分より開催した臨時総会(出席人員千七百五十八名総組合員二千四百四十三名)に於いて右代議員会決定の懲罰事案を諮り質疑應答意見発表及び原告等の弁明があつた後投票を行い交替勤務の從業員がいるところから総会に委任状を提出した不出席者に投票の機会を與える爲慣例に從い報告会を三回に亘り開催投票(時刻及び投票者数内訳第一回十九日午後十時三十分百六十八名第二回二十日午前零時二十分百十四名第三回二十日午前八時二十分百七十九名)の結果前記代議員会決議に対し賛千四百九十六票否六百五十九票無効二十票白票三十九票となり原告等を除名するに至つたものである。
以上の如き経過であり被告組合の本件除名処分は、
(一)、原告等が被告組合の代議員会の決議に違反したことを理由とするものであるから右は明らかに組合の統制を紊した行爲であり労働組合はその団結を強固にする爲統制違反行爲を禁じ之に対し制裁を科することも当然であり、一般国民の政治活動の自由が保障されて居ると言うことを以て組合の統制外の事項であるとは謂えない。
(二)、凡そ組合員に一定の行爲があつたか否か右行爲が組合の統制を紊す行爲であるか否か、統制違反行爲に如何なる懲罰を科すべきであるかは自主的民主的独立性を要望される組合の内部的自己統制の問題であり組合規約に基く正当な手続を以て多数決の原則に從い決定がなされた以上、右決定が強行規定に違反し或いは懲罰権の故意の濫用に亘らない限り有効なものである。
(三)、懲罰を決定するに当つては刑罰同様其の情状を勧案すべきものであつて原告等は前記の如く本件除名に際し所属の共産党細胞に名を籍り被告組合の幹部を誹謗し、事実無根のことを記載したビラを頒布する等の反組合的活動に終始する等改悛の情が更に認められない状況である。
等を綜合すれば正当なものであり無効ではない。
と述べた。(立証省略)
被告会社訴訟代理人は、原告主張事実中被告組合が原告等を除名したこと、被告会社と被告組合間のユニオン・シヨツプ制協約の故に被告会社が原告等を解雇したことは認めるが被告組合が御用組合であることは否認し、除名に至つた経緯は不知と答え原告等の解雇は被告組合より除名の申出があつたので協約に從い行つたもので原告等には夫々解雇手当を支給して居り無効の瑕疵はないと述べた。(立証省略)
四、理 由
原告等主張事実中被告組合が被告会社倉敷工場從業員を以て組織され総同盟岡山縣連合会に所属していること昭和二十四年五月一日のメーデーに被告組合員である原告等が共産党員である爲共産党主宰の行事に参加し被告組合に不参加理由書を提出することなく其の行事に参加しなかつたことから被告組合は原告主張の如き手続(但し其の手続に瑕疵ありや否やに付いては爭いがある。)を経て原告等をその右行動が組合の統制を紊したことを理由として除名したことは当事者間に爭いないところである。
先ず原告等が被告組合に不参加理由書を提出することなく組合のメーデー行事に参加しないで政党の行事に参加したことが被告組合規約(甲第一号証成立に爭なし。)第二十四條に所謂組合の統制を紊した行爲に該当するか否かに付いて按ずるに、原本の存在及び成立に爭ない乙第一号証並びに証人上野潔、鳥越三喜雄、浅野玉二の各証言及び証人鶴井勝美の証言(但し後記措信しない部分を除く)を綜合すれば被告組合に於いては昭和二十四年五月一日の倉敷地方労働組合協議会主催のメーデー行事に参加することとなり、メーデー準備委員会を設け同会は組合員に対しメーデーに全員参加すること事故不参加者は組合長宛不参加理由書を提出すること等を内容とするメーデー参加要項を定め組合代議員会は右要項を記載したビラを代議員を通じて各部署に配布すると共に之を工場正門に掲示して組合員に徹底するよう計つたことが認められ、右認定に反する証人鶴井の証言部分は措信しない。
右事実をメーデーの行事が労働組合にとつては年一回の重大な行事であることからすれば、組合員は先ず組合の行事に参加すべきものであり原告等が不参加理由書を提出せず組合の行事から遊離して政党の行事に参加したことは事の軽重は兎も角として所属組合の統制を紊したものと認めざるを得ない。
次に本件除名処分が権利濫用に属するか否かに付き爭いがあり元來労働組合は自主性独立性を要望される労働者の団体であつて組合が其の規約に從つて組合員の除名決議を行うのは組合内部の自己統制の問題であり極力尊重すべきであるが、右決議が違法或いは権利濫用に亘る場合は無効であること勿論であるので以下之に付いて考察する。
本件に於いては、
(一)、前記参加要項には不参加理由書を提出しない不参加者に関する処置に付き別に規定せず証人鶴井の証言によれば参加不参加は組合員の自由意思に任せ統制を加えぬ趣旨であつたことが窺われ、又一般組合員も参加及び不参加理由書提出に付き左程嚴重に解して居なかつたことが証人上野、浅野の無届不参加者が三百六十九名届出不参加者が三百四十九名あり後日不参加理由書を提出させた旨の証言により認められること。
(二)、組合規約第二十四條によれば組合の統制を紊した行爲に対する懲戒には除名権利停止及び損害賠償の三者があり原告等の本件行爲は組合内部にあつて積極的に秩序を攪乱し結束を破壞するものではなく他の不参加者と異なり政党に参加したとはいえ寧ろ消極的な行爲であるに対し除名処分は組合員にとつては組合から追放される最大の重要事であり、更に本件の如く使用者との間にユニオン・シヨツプ制労働協約を採用している場合は除名即解雇であり、組合員の生活を根底から動搖させるものであること。
を綜合考按すると、除名処分は原告等の行爲に対する懲罰としては社会通念に反する酷な処分であつて権利濫用に属し無効のものと謂うべきである。
尚被告組合が情状として主張する点及び除名の動機となつたと考察される点に付き檢討すれば、
(一)、メーデー当日の共産党の行動に秩序統制を破る点があつたことは証人上野、鳥越の証言により認められるが(右認定に反する証人佐藤秀夫の証言は措信しない。)右は代議員会に於て組合の干渉する問題ではないとされ、実情調査委員会も之に関する資料を提出しなかつたことが同証人等の証言により認められるので除名事由とはなつていない。
(二)、成立に爭ない乙第三乃至第六号証及び証人鳥越、浅野の各証言により懲戒委員会開催中「日本共産党西部地区委員会」作成名義の被告組合幹部攻撃のビラが被告会社工場附近で頒布されたことは認められるが原告等が右ビラの作製頒布情報提供等を行つた点については其の主張或いは立証がない。(証人鶴井、浅野の各証言中原告等が組合幹部を謗誹し或いはビラの資料を提供したとの部分は措信しない。)
ものであつて前記結論を覆えすことは出來ない。
そこで爾余の爭点に付き判断する迄もなく此の点に於いて原告等の被告組合に対する請求は理由があるものとして之を認容する。
次に被告会社に対する請求に付いては組合除名処分があつたので被告会社が被告組合との間に締結して居る労働協約のユニオン・シヨツプ制條項に基き原告等を解雇したことは当事者間に爭いがないので前認定の如く前提をなす除名処分が無効である以上解雇処分も亦解雇手当支給の有無に拘わらず無効となり被告会社原告等間の雇傭契約も存続することとなるので此の点に関する原告等の請求も亦理由がある。
そこで訴訟費用に付き民事訴訟法第八十九條、第九十三條を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 菅納新太郎 多田義雄 辻川利正)